研究テーマ

 最初の2段落は、卒研配属を控えた学生さん向け、それ以降はプラス大学院受験をひかえた学生さん向けです。より詳しくは研究成果をご覧ください。

 

 青木研では、生物を対象に実験・観察を中心にした研究を進めています(情報文化学部・情報科学研究科においては、この点で比較的少数派・ユニークといえると思います)。生物は、単純で規則的な反応を示したかと思うと、ちょっと考えただけでは理屈の分からない、複雑な行動を示したりします。また生物は、誰かがデザインしたわけでもないのに、機能的でとても美しい姿・ふるまいを見せてくれます。

 

 理論的なアプローチにも魅力を感じるけれど、まずは生物を直接見て・触って研究してみたい人、遺伝子工学をマスターしてみたい人、新しい生命現象を発見したい人、あるいは数学はちょっと苦手だけど生物の実験なら、という人ももちろん、一緒に研究してみませんか?

 

 現在、主に2つのテーマについて研究を行っています。下に、それぞれどんな研究なのか、ごく簡単ですが、まとめてみました。もっと詳しく知りたい人は、直接連絡して聞いてみてください。

コケの原糸体の培養プレート
コケの原糸体の培養プレート

 

テーマ1「コケ植物を用いた生物時計の進化解明」

 青木研では、「ヒメツリガネゴケ(学名:Physcomitrella patens)」という名前のコケ植物を用いて、「生物時計」の仕組みとその進化を明らかにすることをテーマの1つとして研究を行っています。

 

生物時計と生物リズム 多くの生物は、自律的に1日の時を刻む「生物時計(概日時計、体内時計とも言います)」を体内に備えています。生物時計は、地球の自転によって生じる、昼と夜からなる環境の激しい周期変化に適応するための仕組みです。この時計は多くの生理プロセスを制御しています。その結果、1日周期の様々な振動現象が生物にみられますが、それらを総称して「生物リズム」と呼びます。私たち人間の多様な活動も、この時計の制御のもとにあります。例えば、一番身近な生物リズムとして、私たちの睡眠と覚醒のリズムを挙げることができます。動物、植物はもちろん、カビやある種のバクテリアですら生物リズムを示すので、非常に普遍的な生物現象といえるでしょう。生物リズムは多様なスケールの現象にみられますが、現在では、多くの遺伝子が生物時計に制御されていることが分かっています。朝、活発に働く遺伝子や、逆に夜、力を発揮する遺伝子などがあるのです。そういった遺伝子リズムの多くは、多様な生物リズムの分子的な仕組みとして働いていると考えられます。

 

生物時計の仕組み:時計遺伝子と時計遺伝子ネットワーク ここ30年ほどの大きな成果として、時計働きのうえで不可欠な役割を持つ一群の遺伝子=時計遺伝子群(clock genes)が多くみつかりました。真核生物では、時計遺伝子がお互いの活動を制御しあい、「時計遺伝子ネットワーク」を作り出します。このネットワークの動的なふるまいの結果、振動が生まれる、と考えられています。時計遺伝子ネットワークの研究が、実験と理論の両面から活発に行われ、生物時計の仕組みの解明が試みられています。

 

植物の生物時計 植物はとても多くの生物リズムを示します。光合成の活性や気孔の開閉、目立つものとしては葉の上下運動(就眠リズム)などがあげられます。植物の生物時計の仕組みについては、モデル植物のシロイヌナズナを用いて研究が進められ、この植物の時計遺伝子が織り成すネットワークの構造と機能が多くのラボで精力的に調べられています。

 

ヒメツリガネゴケについて 青木研では、新しいモデル植物として期待されるヒメツリガネゴケ(学名:Physcomitrella patens)を使って研究を行っています。ヒメツリガネゴケはコケ植物(蘚類)野一種で、実験を行ううえで有利な特徴をたくさん持っています。まず、このコケを用いれば「遺伝子ターゲッティング」を高い効率で行うことが出来ます。これは、ゲノム上の好きな遺伝子を自在に操作する手法で、この手法によって、特定の遺伝子を完全に壊したり、遺伝子の一部の配列だけを自由に変えたりすることができます。したがって、様々な遺伝子の働きや、遺伝子の間の制御関係を調べるのに非常に適しているのです。さらに、ゲノムプロジェクトが行われ、このコケのゲノムの全塩基配列はデータベースで公開されています。これを活用すれば、多くの遺伝子が関係する現象でも、効率的に解析することが出来ると考えられます。ヒメツリガネゴケを用いることにより、時計遺伝子群ネットワークの構造と機能とを、効果的に調べることが出来ると期待できます。

 

生物時計の進化解明へ ヒメツリガネゴケは進化的に非常に古い起源を持っていて、4億数千万年前もの昔に、いわゆる現在の「高等植物」の系統と枝分かれしたといわれています。データベースを調べてみると、ヒメツリガネゴケのゲノムは、シロイヌナズナの一部の時計遺伝子とよく似た配列を持っているのがわかります(CCA1/LHY遺伝子など)。一方で、シロイヌナズナの時計遺伝子のなかには、ヒメツリガネゴケ・ゲノムには似ている配列が全く見当たらないものもあります(ZTL遺伝子、GI遺伝子など)。また、二つの植物の間で、似ているけれど大事な配列が一部ちがっている遺伝子もあります(PRR遺伝子など)。これらのことから、二つの植物の生物時計は同じ起源を持つと推測されますが、長い進化を経て、それぞれに独自な仕組みを部分的に発達させたと考えられます。コケと、シロイヌナズナやイネなどの高等植物、さらにシダのような中間的な植物との間で、時計遺伝子ネットワークの構造と機能を比べれば、植物の時計の多様性・進化・起源を明らかにすることができると期待できます。さらに、藻類や、さらには動物、菌類など、進化的により離れた生物との比較によって、より大きな進化の枠組みの中での生物時計の進化の道筋がわかるかもしれません。

発光測定装置へのサンプルのセット
発光測定装置へのサンプルのセット

テーマ2「バクテリアの環境適応の仕組み」(制作中)

 このラボでは、大腸菌や枯草菌といったバクテリアを用いた研究も行っています。研究を始めて間もないテーマですが、今後、徐々に力を入れようと思っています。内容にご興味のある方は直接聞いてみてください。

 

研究室探訪(情報科学研究科WEB NEWSVol. 2 (1)))もご覧下さい。